はじめに
先月(2024年6月)27日(木)に黒川弘務東京高検検事長(当時)の勤務延長に関する情報公開訴訟において大阪地裁は、法務大臣の不開示処分の取消等を請求した原告の主たる請求を認容する判決をくだしました。その判決では、法律の解釈変更につき「定年退官を間近に控えた黒川検事長の勤務延長を行うことしかあり得ない」等と判断したので、画期的な判決と報道されました。
もっとも、この訴訟は、第2次訴訟であり、これまで第1次訴訟しか紹介していませんでしたので、以下、説明しておきます。
1.第1次訴訟
検察官には一般の国家公務員とは異なり定年後の勤務延長制度の適用がないという解釈が1981年以降40年余りも維持されてきました。
ところが、「官邸の守護神」と言われた黒川弘務・東京高検検事長は、2020年2月7日に定年退職予定でした。1週間前の1月31日に安倍晋三内閣は閣議決定により半年間の勤務延長を決定したのです。
そこで、上脇博之・神戸学院大学法学部教授がこの閣議決定に関し法務大臣、人事院及び内閣法制局長官に対し、閣議決定後と閣議決定前に分けて情報公開請求したところ、閣議決定前のものとして開示がなされ、閣議決定後のものは不開示とされました。開示された文書には日付などが明記されていなかったので、不自然だと判断し、その開示処分及び不開示処分の取消を求めて同年6月1日大阪地裁に情報公開訴訟を提起したのです。これが第一次訴訟です。
上記情報公開請求及びその情報公開訴訟の詳細については、以下のブログ記事をお読みください。
黒川弘務東京高検検事長の定年延長を決めた閣議決定に関し情報公開請求し提訴した理由・目的
なお、この訴訟は昨2023年12月に取り下げています。
2.第2次訴訟
以上の第1次訴訟とは別に新たな訴訟を提起したのが、冒頭で紹介した第2次訴訟です。
上脇教授は、翌2021年9月に法務大臣に対し、
安倍内閣の前記閣議要請のために「国家公務員法第81条の3第1項に基づき黒川検察官を勤務延長することにつき検察庁法の解釈(解釈の変更を含む)について法務省内において協議、検討、決裁、供覧した文書」、「国家公務員法第81条の3第1項が定年後の検察官にも適用されるとの解釈(解釈の変更を含む)について法務省内部で協議、検討、決裁、供覧した文書」等を、改めて情報公開請求したのです。
しかし、法務大臣は、上記請求のほとんどを不開示にし、2020年に開示された文書も開示されなかったので、翌2022年1月に不開示処分の取消等を求めて大阪地裁に情報公開訴訟を提起ししたのです。訴状は以下です。
原告は、黒川検事長の勤務延長のために法務省において作成した文書を情報公開請求したのに対し、国はそのような文書は作成していないので、存在しないとして不開示したので、争点になったのは、以下の点です。
◆原告主張
黒川検事長の勤務延長のために、勤務延長制度は適用されないという従前の法解釈を変更したので、そのような「解釈変更を示す文書」が作成されているはずである。
◆被告主張
「解釈変更を示す文書」はあるが、それは検察庁法の改正のための検討の過程で作成した文書であり、黒川検事長の勤務延長のために作成したものではない。
◆原告反論
この解釈変更が適用されたのは唯一黒川検事長のみである。
3.第2次訴訟の判決
2024年6月27日大阪地裁は、第二次訴訟につき冒頭で紹介した判決を下しました。
この判決は、法律学における常識的な法律解釈を行い、常識的な事実認定をし、
政府が特定の人物のために法律の解釈変更を行なったという異常性を浮き彫りにしたのです。
画期的な判決でした。その判決とその骨子は以下です。
以上。