時の総理が「桜を見る会」事件を始め、その職権を濫用して国政を私物化していることについて、疑惑の究明を求める市民から様々な刑事告発がなされた。告発事件の捜査や起訴など検察の対応に影響を与えるべく総理を忖度してくれる検事総長を選びたい、そんな想いからの天の声が、検察官の定年延長や黒川検事長の勤務延長の閣議決定を生み出したのではないか。この疑惑の真相を解明したいというのが黒川検事長の勤務延のと閣議決定をめぐる情報公開請求訴訟である。
驚くべき事に開示された法務省の作成した検事の定年延長に関する国公法の解釈変更を認めた文書には全く日付がなく、また誰が作成したのかも全く不明の文書であった。本当に検察の本来の仕事上の必要があり、法務省や検察庁内で黒川検事長の勤務延長の必要性を議論して、省内・庁内で正規に決定したうえでの閣議決定であれば、こんなずさんな文書しか残っていないはずはない。やはり天の声に引きずられてまともな手続きを経ずに黒川検事長の勤務延長の閣議決定に至ったことの表れではではないか。
本来このような国政上の重大な疑惑については、主権者である国民の代表である国会がその権限を行使して、総理の国政私物化の実態を解明すべきである。ところが国会は政権与党の多数支配の下では容易には追求は進まない。野党や世論に押されながらも、ずるずると幕引きに動くのが政権与党である。
こんな時に、威力を発揮するのが情報公開請求訴訟である。情報公開請求は市民一人ひとりの権利である。従って、政治的多数とは無関係に市民一人でも行使できるのである。そして市民一人でも、おかしな情報公開や非開示について原告となって裁判所で主導的に真相の解明にむけて訴訟活動を転回することができる。もちろん訴訟というシステムの制約もあるが。
地方自治体での首長らの権限濫用については、公金の支出等の不法・違法を正すために市民一人ひとりに監責請求権が認められている。そして不当な監査結果については住民訴訟を一人でも起こすことができる。国政にはそのようなシステムがないが、情報公開請求訴訟が実際的には同じような機能をもっているのである。
すなわち、地方行政については、地方議会とは独自に市民が一人でも公金の支出等の監査を通じて地方行政のゆがみを監視することができるのに国政ではそのような制度が欠けているところ、情報公開請求訴訟がその役割を代替してくれるのである。
刑事告発を通じた国政の監視も確かに市民一人でも可能であるが、刑事問題となるような場合に限られるし、原告としての活動とは異なり結局は検察の活動に任せるほかなく、その意味で受動的でしかないことになる。
情報公開請求訴訟のこのような役割・効用の理解がもっと広がることを期待してたわごととします。