東京地検特捜部は「桜を見る会前夜祭」事件で公訴時効を事実上短縮して政治屋に恩を売ったのではないか!?

はじめに

「安倍晋三後援会」(「後援会」)主催の「桜を見る会前夜祭」(「前夜祭」)事件については、「桜を見る会」を追及する法律家の会の奮闘により、全国の弁護士・法律家が昨2020年5月(以降)、2018年分に限定して政治資金規正法違反(政治資金収支報告書不記載罪)・公職選挙法違反(選挙区内の者への寄付供与罪)容疑で東京地検に刑事告発していました。私も告発人の一人です。

 同年11月下旬以降、新たな事実がマスコミ報道され、年内に処分がなされるのではないかとの報道があり、急遽、弁護士数名が2015年分以降2019年分までにつき、資金管理団体「晋和会」も含め、12月21日に刑事告発していました。私もその前日に告発状を東京地検に郵送しました。

特捜部の不可解な不起訴処分

 東京地検特捜部は、同月24日付で、刑事処分を行いました。なお、担当検事は、私が不起訴処分理由の開示を求めたところ、1月7日付告知書を送付してきました。

①「晋和会」については、安倍前首相を含め「嫌疑不十分」で不起訴(この点については、ここでは取り上げず別の機会に取り上げます)。

②「後援会」の代表兼会計責任者であった公設秘書(辞職・元秘書)については、「前夜祭」の収支を政治資金収支報告書に記載しなかった2016年分、2017年分、2018年分および2019年分の政治資金規正法違反容疑につきの略式命令を東京簡易裁判所に請求しましたが、2015年分については、「嫌疑不十分」で不起訴。

その不起訴理由は、2015年分が2016年分~2019年分と事件として本質的に異なるからではありません。政治資金収支報告書に「前夜祭」の収支を記載しなかった点で2015年分も2016年分~2019年分と本質的は同じです。

報道では、2015年分政治資金収支報告書が山口県選挙管理委員会における保存期間3年を経過し廃棄されたため東京地検は不起訴にしたとみられると報じられました。これは不起訴処分した検事が報道機関に説明したものでしょう。したがって、これが「嫌疑不十分」の実質的理由。

元秘書は2013年以降の「前夜祭」の収支を記載すべきなのに記載していなかったことを自白しているので、その実質的理由によると、検事が「後援会」の2015年分政治資金収支報告書を入手して、同収支報告書に「前夜祭」の収支が記載されていないことを確認していたら検事は2015年分も立件して2016年分~2019年分と一緒に起訴していたことになります。

「後援会」の2015年分政治資金収支報告書は公表され誰でも入手できる

 政治資金規正法は政治資金収支報告書等の保存につき、その提出を受ける総務大臣または都道府県選挙管理委員会に対し「報告書の要旨を公表した日から3年を経過する日まで保存しなければならない」と定めているので(同法第20条第1項、第20条の2第1項)、政治資金収支報告書の保存期間は、その要旨が公表される11月某日から数えて、確かに3年。

東京地検が捜査を開始した昨2020年の時点では、「後援会」の2016年分~2018年分政治資金収支報告書は山口県選挙管理委員会に保存されており、2020年11月中に公表された2019年分政治資金収支報告書も当然保存されていたものの、「後援会」の2015年分以前の政治資金収支報告書は廃棄され、保存されていなかった可能性が高いであろう。

しかし、2016年に設立された公益財団法人「政治資金センター」(共同代表 阪口徳雄、松山治幸。所在地    大阪市北区同心)は、総務省や都道府県選挙管理員会のホームページ(HP)でインターネット公表していた全政治資金収支報告書のうち、特に全国の衆議院議員及び参議院議員らの関係する政党支部及び政治団体の各政治資金収支報告書のPDFファイルのほか、インターネット公表していない県選挙管理員会には情報公開請求をして開示を受けた各政治資金収支報告書をPDFファイルにして、「政治資金センター」のHPで各国会議員毎にまとめてインターネット公表しています。無料なので、誰でも自由にアクセスできます。

国会議員に関係する政治団体は複数あるし、どのような名称の政治団体があるのか、政治団体の届け出先が総務大臣なのか、それとも都道府県選挙管理委員会なのかなどについて事前に知らない多くの国民にとっては、とても分かり易いWEBサイトです。

安倍晋三内閣総理大臣(当時)の関係の政党支部及び複数の政治団体の各政治資金収支報告書についても、2011年分以降の政治資金収支報告書を山口県選挙管理委員会に情報公開請求し開示を受けて入手しPDFファイルにして、それらを安倍議員のページにまとめてインターネット公表しており、そこには「後援会」の2015年分政治資金収支報告書も含まれています。検索機能もあり、「安倍晋三後援会」で検索すると2015年政治資金収支報告書が表示されます。

したがって、インターネットを使用している者が「政治資金センター」のHPにアクセスすれば誰でも「後援会」の2015年分政治資金収支報告書を閲覧でき、印刷でき、自己のパソコンに取り込むこともできる状態にあったのです。これについては、このブログでも「政治資金収支報告書の入手方法と『政治資金センター』」の投稿で紹介しました。

「政治資金センター」の活動は報道機関を通じても紹介されているので、不起訴処分をした検事が「政治資金センター」による政治資金収支報告書のインターネット公表を知らないはずがありませんし、また、たとえ事前に知らなかったとしても、私は、告発状に「後援会」の2015年分政治資金収支報告書のリンク(https://www.openpolitics.or.jp/pdf/350405/2015.pdf)を貼り付けておいたので、処分検事は、それを通じて入手していたはずです。

公訴時効を事実上短くした不起訴処分

「政治資金センター」は、山口県選挙管理員会に対し「後援会」の2015年分政治資金収支報告書を請求し、開示を受けて同収支報告書をPDFファイルでインターネット公表しています。

にもかかわらず、政治資金規正法が政治資金収支報告書の保存期間をその要旨公表から3年と定めている結果として山口県選挙管理員会を通じて「後援会」の2015年分政治資金収支報告書を入手できないことを理由に、検察が「後援会」の2015年の「前夜祭」の政治資金規正法違反の収支不記載罪を不起訴処分にしたのは、明らかに不合理であり、正義に反します。特に本件事件における政治資金規正法違反の収支不記は、単純なミスではなく、2013年分から2019年分まで故意に行われており、常習犯であり、悪質です。

これでは、刑事訴訟法の定めた公訴時効は事実上短縮されてしまう上に、証拠に基づき十分有罪にできる容疑者を放免してしまうことになります。

それを歓迎するのは、政治資金規正法を平気で破る政治屋側であり、主権者国民ではありません。こんなことを許していては、主権者国民の抱く政治不信は増幅するばかりです。

不起訴の真の理由は別ではないかとの疑念

更に言えば、東京地検が「後援会」の2015年分を不起訴にしたのは、別の理由だった可能性がないとはいえません。

東京地検は元秘書の略式命令を東京簡易裁判所に請求しましたが、同簡裁は公判を開く可能性がなかったわけではなく、公判を開く可能性もありました。告発した弁護士らのグループは正式の起訴と公判を求めていたからです。

安倍前首相が事件に関与していたことを裏付ける事実が2016年以降はなかったものの、2015年以降はあった、あるいは東京地検が起訴していない資金管理団体「晋和会」が「前夜祭」のホテル側への補填を行った事実を裏付ける証拠があったのかもしれません。そのほか、2015年以前には安倍前総理が説明している内容とは異なる事実を裏付ける証拠があったのかもしれません。

あるいはまた、2016年以降もそれらを裏付ける事実や証拠があったものの、簡易裁判所に公判を開かせず略式命令を出させるために、東京地検は、不記載の金額の総額を少しでも少なくするために2015年分を不起訴にしたのかもしせません。

いずれにせよ、もしそうであれば、東京地検は、「政治資金センター」がインターネット公表している「後援会」の2015年分政治資金収支報告書を入手していながら、政治資金規正法により政治資金収支報告書の保存期間が3年であることを表向きの口実にして、あえて2015年分を不起訴にしたのではないかとの疑念が生じます。

                                  以上。

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