はじめに
上脇博之・神戸学院大学法学部教授がいわゆるアベノマスクに関する文書を情報公開請求をし、厚生労働大臣と文部科学大臣が、アベノマスクの契約書等の単価及び数量を非開示にしたので、その取消等を求めた情報公開訴訟を2020年9月28日大阪地裁に提起。この訴訟については、今年(2023年)2月28日に、大阪地方裁判所(徳地淳裁判長)が原告の全面勝訴の判決を下しました。
判決から2週間になる3月14日までに国が控訴せず、契約書等の単価や数量の開示を命じる上記大阪地裁判決が確定したので原告・弁護団長がコメントを公表しました。
アベノマスク情報公開訴訟(単価訴訟)大阪地裁判決の確定について
1.開示文書を分析して記者会見で公表
判決の確定を受けて厚生労働省と文科省は単価などを原告に開示しました。原告は、裁判の対象外のアベノマスクの文書も情報公開していたので、単価なども含めの開示を受けました。原告・弁護団は開示された文書を分析し、先日(4月24日)、記者会見して分析結果を公表しました(下記写真は長野真一郎弁護士撮影・提供)。すでに報道でご存じの方も多いかもしれません。
(向かって左から谷真介主任弁護士、原告、阪口徳雄弁護団長、坂本団弁護士)
■これまでの経過
・2020年(令和2年)9月28日 ①単価訴訟を大阪地裁に提訴
・2021年(令和3年)2月22日 ②契約締結経過文書訴訟を大阪地裁に提訴
・2022年(令和4年)1月 ②調達企業に対するメールの文書送付嘱託が採用→2月に数社が大量のメールを送付
・2022年(令和4年)3月 ②国がメール等について再調査→7月100通以上発見→11月国は結局「請求対象外文書である」としてメール等を提出せず
・2022年(令和4年)10月 ①弁論終結(結審) 判決言渡し期日が2月に指定
・2023年(令和5年)2月28日 ①単価訴訟の判決言渡し(徳地淳裁判長)
・令和5年3月15日 ①単価訴訟の判決確定→4月に文書開示(訴訟対象後のも含め)
2.分析結果
主任弁護士として奮闘した谷弁護士が中心になって原告・弁護団が公表した分析結果を、以下にて簡潔に紹介しましょう。ただし、分量が多いので、2回に分けてご紹介します(業者選定経過・交渉経過については2回目で紹介します)。
■布マスク(アベノマスク)配布事業について
・政府事業として巨額の約543億4856万円の税金支出(介護事業者用、妊婦用、学校用、全世帯用)。そのうち、調達について約443億円(厚労省約400億円、文科省約43億円)、調達以外の費用(配布、検品、コールセンター等)約101億円(厚労省約98億円、文科省約3億円)。
★その後の保管費用、再配布費用等で、さらに税金支出がされている。会計検査院決算検査報告の令和3年3月時点で約8,272万枚が残り、保管費用はそれまでに約6億円かかっている(その後の保管費用については報道があるが、最終費用の数字は不明)。2022年4月1日時点で約7100万枚残り、再配布に約5億円かかる見込み、不良品や未検品の710万枚は処分する、とされた(厚労省発表)。
・アベノマスク調達総枚数は約3億2000万枚(うち全世帯向けは約1億3000万枚)。
・17社が随意契約で受注。その業者選定や受注、価格決定の理由や経緯は国民明らかにされていない。 *会計法では一般競争入札が原則。緊急の必要により競争に付することができない場合に限り随意契約が可能。
・全世帯向けマスクは、国民宅に届くころ(2020年6月下旬)にすでに市場にマスクが出回っていた。
・カビや汚れや虫の混入による問題が生じた。
・不透明な発注問題(ユースビオ社など)。ただ、最大の受注先は、興和、伊藤忠、マツオカコーポレーションの3社である。
・2021(令和3)年11月、会計検査院からもさまざま問題が指摘された。品質基準を定めた仕様書がない、不良品に対応する措置の定めがなかった(逆に興和に対し瑕疵担保責任を免除)、保管費用の増大の問題等。
・「流通向けシステム開発のプラネットがまとめた意識調査」(日経新聞2020年8月13日)では「使用率3.5%」。
・民間臨時調査会(2020年10月8日報告書発表、安倍前首相や閣僚、専門家ら83に聴取した報告書)では官僚ヒアリング「アベノマスクは失敗、一部の暴走」。
・一方、「安倍晋三回顧録」(中央公論新書、2023年2月8日)では安倍元首相「わたしは政策として全く間違っていなかったと自信を持っています」
■開示された単価について
・調達単価、税抜で最低62.6円(税込68.8円)~最高150円(税込165円)まで約2.5倍の差があった。
・当初の一本釣りと思われる6社(興和、伊藤忠商事、マツオカコーポレーション、ユースビオ、シマトレーディング、横井定)の単価は概ね税抜120円~150円だが、厚労省の公募(4/1~10)以降の後続の社の単価は概ね税込み60~120円で、安い傾向あり。
・入札は本当にできなかったのか、当初から公募はできなかったのか。業者との特定のつながりや癒着のようなものはなかったのか、価格交渉はどの程度されたのか。
・特に興和とは、いったん契約した税抜300円(厚労省)、200円(文科省)と破格の価格で契約したが、その後130円に変更契約。厚労省分だと総額税込49億5000万円(3/17)→税込21億4500万円(4/3)。約28億円も高い契約をしていた。その変更理由についても一切文書が残っていない。→あまりにも言い値で契約したが他者との比較で高すぎたということか?元々の契約はどうだったのか?
・全体で約3億2000万枚なので、使用率3.5%だと1120万枚で十分だった計算になる。単純計算すると1枚当たり約4,800円(調達だけでも約3,900円)だったことになる。
*なお全世帯向けだけでも1億3000万枚で、使用率3.5%だと455万枚で十分だった。上記単価62.6円~150円を使用率3.5%に引き直すと、使用された枚数にかかった調達単価は税抜1,788円~4,285円になる。
・配布費用が1枚あたり59.82円であるので、使用率3.5%だと1枚あたり1,709円になる。
以上。